『太平洋戦争における人種問題』クリストファー・ソーン著・・・(1)

草思社、1991年発行、市川洋一訳。原題は、"Racial aspects of the Far Eastern War of 1941-1945"by Christopher Thorn,1982。
1980年に行われた講演を書籍化したもの。

この人は別に、大著の『米英にとっての太平洋戦争』上下巻や、『太平洋戦争とは何だったのか』といった本があるが、なかなか読む暇がない。この『~人種問題』はそれらの中から、人種的側面を取り上げて講演したのをまとめた小冊子。いくらかをHPの方の「映画「永遠の0」で描かれた特攻」で引用した。

太平洋戦争というのは複雑な様相を持っている。普通に考えれば、国家間の利害をめぐる戦争である。しかし歴史的にはアジアにおける植民地支配を終わらせた戦いでもあった。当時白人が支配した世界に公然と反抗を行った人種間の戦いでもあった。あるいは、戦後サヨクに言わせれば、理性と良識によって保たれていた平和な世界に日本が殴り込みをかけ、「アシア諸国」を侵略した戦いであったらしい(笑)。「アジア諸国」とか。19世紀にアジアにあった幾つもの王国を侵略して崩壊させ支配したのは欧米なんだが。白人の植民地支配の事はスルーするのがこの連中の思考の流儀らしい。

この人の本は、とにかく引用が多い。当時の雑誌、新聞、書籍を非常に幅広く調べている。私にとっては、それが貴重だと思える。観念的なことは後付でどうにでも言える。しかし、実際に当時語られた事、信じられた事、行われた事こそが決定的に重要である。それだけが信頼に値すると思う。

うまくまとめるのが難しい本でもあると思うので、引用中心で書いていく。各セクションごとにまとめる。カギカッコの部分は当時のものからの引用。 → このページの続き


☆ 「人種」という概念

P6 ・・・著名な軍人であり歴史家でもある人が、私に「今日的な意味で言えば、1939年から43年の間はたいていの人が人種差別主義者だった・・・・・西欧文明の完全な優位性が依然、信じられていた」と語っています。

p8 また、別のインドネシアの民族主義運動の指導者は次のように書いてます。「一般のインドネシア人にとっては、この戦争はニ大国間の世界戦争ではなかった。それままさに、オランダの植民地支配者がインドネシアにもちこんだ悪、傲慢、抑圧がついに神によって罰せられる戦いであった」。

p11 日本の戦いは全アシアのための「聖戦」であると日本が宣言したとき、それは前インド国民会議派議長のスパス・チャンドラ・ボースにとっては日本の誠実さの証明でしたが、同じインドの民族主義的新聞『ボンベイ・クロニクル』にとっては「吐き気を催すような偽善」だったのです。・・・一方インドシナのホー・チ・ミンにとっては白人のフランス人も黄色人種の日本人も同じ敵でした。

※※※ このセクションで書かれていることは、この議論の元になる「人種」という概念の曖昧さ、多様さなど。決して人類学的な分類ではないということ。また、場合によって、相手によって使い分けられていたこと。例えば、ナチの反ユダヤ人主義には人種差別として強く反対していたのに、植民地に対しては人種差別的な見解を抱いていた人がいたことなど。フランスではソ連の指導者を、「モンゴルの指導者」といって非難していたり。人種が直接的な戦争の原因では無かった事。日本人自身が自分達がアジアに属するのかどうかという点について矛盾した考えがあった事。


☆ 揺らぐ西欧の優位

p14 日露戦争の日本の勝利によって、ある中国の新聞は、今やわれわれは「黄色人種の再生を信じる」事ができると書きました。インドではパンディ博士が書いてるように日本の勝利は「青年たちの心を無敵ヨーロッパの呪縛から解き放ち」ました。

p18 1938年、アンソニー・イーデンは日本の非妥協的な態度に直面して、「極東における白色人種の権威を断固として主張」することが重要であると強調しました。

p19 アメリカ陸軍の高級参謀の一人は、1930年の極東問題の中心は、「その大多数は、感情的jにも、宣伝によっても、西欧支配を振り捨てるようにたえずかきたてられている、発達の遅れた黄色人種や褐色人種」に対する白人の支配を維持することにあると規定しています。

p21 イギリスの極東軍司令官は1940年に香港島を訪れた後、次のように書いています。「国境の有刺鉄線越しのすぐ近くに汚れた灰色の制服を着た人間らしい生きものを見て、あれが日本の兵隊だと言われたが・・・彼らが優秀な戦闘部隊になるとは信じられない」。

※※※ ここでは、アジアの側からの反西欧の動きとそれへの西欧側の対応が取り上げられている。アジアにおける民族主義的感情には各種のものがあって、中には他のアジア人への敵意を伴うものがあったり、イデオロギー的なものもあった。しかし、日露戦争から第一次大戦での欧州の疲弊、日本の国際連盟脱退などによって、欧米に対するアジア全体の反乱という側面が強まっていった。日本国内でも、日本はアジアの盟主として欧米に立ち向かおうという主張が出てきていて、アジアにおいても小数ではあったが、それに歓呼の声を送る人がいた。アウン・サン、チャンドラ・ボース、スカルノ。そして欧米の側にもいずれ東西の対決になるとする見方が広がっていった。


☆ 日本の「勝利」の衝撃

p23 (多くの日本人にとっては)とくに中国との戦争については、それが同じアジア人を相手とする戦争だけに、その意義づけについてはいろいろと難しい面がありました。しかし今や、蒋介石が真の敵である西欧列強と公然と手を結んだ以上、西欧の傀儡として彼を排斥することができるようになったので、その点での困難は除かれました。

p25 たとえばマレーの行政官だったあるインド人は、後にこう述べています。「私の理性は、アングロサクソンに対する日本の戦いに味方することにはまったく反対だったのだが、私の心情は本能的にそれに共感を寄せていた」。

p28 しかし西側の主な反応は不安でした。真珠湾の報道が伝わるにしたがって、「国中がパニックに陥ろうとしている」と、著名なワシントンの記者レイモンド・クラッパーは書いています。

p29 ・・・シンガポールが陥落したとき、ビシー・フランスの新聞までもが、アングロサクソンの失敗にはほくそ笑みながらも、「未発達民族」の目に映じた「白い支配者」の声望の失墜の影響と、東洋から西欧勢力を排除するという日本の目的について、不安げに論じています。

p30 彼の(ヒトラーの)目から見れば、日本人は「文化水準ではつねにわれわれに劣って」いてドイツ国民とは「似たところはまったくない」国民でした。そのうえ、彼はひそかに日本の緒戦の劇的な勝利は「歴史の転換点」であり、それが「白色人種が敗れ・・・全大陸が失われる」ような結果をもたらすことになりはしないかと恐れていました。

※※※ 人種的原因で始まったわけではない戦争ではあったが、日本の緒戦の勝利によって、「白人対有色人種」、「西欧対アジア」という側面が意識されていった。アジア人にとっては、イギリス兵の無責任な逃亡や大量に捕虜になったことに対する幻滅、驚きが広がり、大英帝国の威信が消えていった。アジアの独立運動家にとっては、独立への希望を与えるものであった。西欧においては、不安が広がり、枢軸国のドイツや、ビシー・フランスにおいてもそれは同様であった。



☆ 助長されていった人種的偏見

p32 1942年4月のドゥーリトル飛行隊の東京空襲の後、日本の漫画ではアメリカの飛行士は邪悪な悪魔に描かれていましたし、アメリカの漫画ではアメリカの飛行士を処刑する日本兵は猿として描かれていました。

p35 イギリスにおいても、ドイツ人の方は、かつては文明国民だった、道を誤ったのはナチスのせいだといわれていたのに対し、日本人に対しては、最近のある研究によると、「まるで新しく発見された新種の動物にでも使うような言葉」が用いられていたということです。

※※※ 実はこれは戦後もずっとそうだった。前にも書いたが(→ページ)、石原慎太郎が予算委で質問した時にこのことに触れている。

>・村松剛がアメリカに行った時、日本とドイツの終戦記念日のニューヨークタイムズの社説をもって帰り、それを読んだが対照的だったという話。「ドイツについては、この民族は非常に優秀だったがナチスによって道を間違えた、早く復興するために協力しよう、と書いていた。日本については、怪物ナマズから牙を抜いている図を書いて、この醜く危険な化け物は倒れはしたが、まだ生きている。我々は世界の為にこの化け物を解体しなくてはいけない」と書いていた。

これは多分60年代のことだろうと思うが、NYタイムズでも当時平気で人種的な偏見を書いていたのだ。
(追記8/30) いくらなんでも60年代でこの記事ないと思うから、戦勝直後辺りの記事をあとから見て書いたのかもしれない。


まだ3分の1ほど。











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